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神話はなぜ似ているのか?――『世界のはじまりの神話学』読書メモ

この本は神話とくに、はじまりの神話、起源の神話にフォーカスして解説した本である。
角川選書ビギナーズシリーズということもあり、この本はかなり読みやすい。
神話という広くてとっつきにくいテーマに対して、入り口としてはとても優れていると感じた。

一方で、内容はやや断片的で、似た話や型が繰り返し出てくる印象もある。
体系的に整理されているのだが、神話という性質上だろうさまざまな神話の断片を横断的に紹介される。
学問としての誠実さとしては上のようになるのは仕方がない感じだが、わかりやすさとのバランス上ではいまいちなところもあるのかもしれない。
しかし、わかりやすさに振りすぎると図解、絵解きの中身のないものになってしまうだろう。
知識欲を適度に刺激してくれる入門書として、ここから広げていく足がかりとしては非常に良い本だと思う。

以下では気になったところ、覚えておきたいところをまとめた。

はじめに

この本は体系的に神話を学ぶための入り口のような位置づけの本だと思われる。
理解をやさしくするためだろうだれの議論だとか主張だとかはほとんど示されない。
解説されているのは神話学、比較神話学?上で重要だろう神話の中に現れる類型と神話間のつながり、民族同士の交流と伝播について語られている。
また、本全体の枠組みとしては世界の創世神話、人間の起源の神話、文化の起源の神話という三つの部にわけて語られている。
以下では本書の建付けにそって書くこととする。

第一部 世界のはじまりの神話

神話の折り返し構造 キアスムス

神話には折り返し構造が存在するという。キアスムスと呼ばれる。
A→B→C→B'→A'のような話の展開を持つという型。

世界両親

世界は父と母の神から生まれるという
天父地母型 ギリシャ神話(ウラノス ガイア) 日本神話(イザナギ イザナミ)
天母地父型 エジプト神話
同じ構造でも、男女の役割が逆転している場合もある。
 

天上の王権

神々の支配者が世代交代していく神話。王者の交代神話。
ギリシャ神話 ウラノス→クロノス→ゼウス

クマルビ神話(ヒッタイトの神話)ギリシャ神話との類似性がある。
フルリ人(古代メソポタミアの民族)→ヒッタイト人→ギリシャに伝わった
ギリシャ神話の原型と考えられる。
ja.wikipedia.org

宇宙卵型

世界が「卵」から生まれる神話。
インド神話(ブラーフマナ文献、マハーバーラタ)
フィンランドの民間伝承

世界巨人型

巨大な存在の身体から世界が作られる。
インド神話(リグ・ヴェーダ):プルシャ
北欧神話:ユミル
中国神話:盤古
(バビロニア神話 エヌマ•エリシュ 塩水の女神ティアマト ちょっと外れるが、入れることも可能かもしれない神話 塩水とは海のことか)
世界巨人神話は印欧語族の共通神話で起源は同一で伝播したものかもしれない 

洪水神話

洪水神話の構図
①若い神々or人間が増えすぎる
②騒音に苛立った(古い)神々が大洪水で世界を滅ぼそうとする
③(知恵の)神が、敬虔な者を選び洪水の到来を伝えて、大きな船の建造し、家族と動物を積み込んで大洪水を生き抜き、新しい世界を始めるように命じる

西型洪水神話

西潟は夫婦が救われる洪水神話
メソポタミア シュメール人 シュメール神話集成:王にして神官ジウスドゥ信託により船をつくり、七日七晩の洪水をのりきる
アッカド アトラー・ハシース物語 洪水物語
バビロニア ギルガメッシュ叙事詩:大洪水を生き残ったウトナビシュティムの話
上二つはシュメール洪水神話と同一構図

伝播関係
シュメール人→アッカド、バビロニア→小アジア、ヒッタイト王国→カナン地方、イスラエル人、旧約聖書
→(ヒッタイトから?)ギリシア、ビブリオテケ

東型洪水神話

親子や兄妹が生き残り近親相姦で子孫を増やすタイプ。
中国少数民族 ミャオ族 ヤオ族 ブイ族
兄妹が生き残り子供をなすが子供は肉塊、それを切り分けるとそれぞれが別の部族となった
子供が肉塊という部分が日本神話のヒルコの類似性
日本神話の原型では洪水で生き残ったイザナギとイザナミの話だった可能性もある 泥の海の言い伝え

東西折衷型

インド シャタバタ・ブラーフマナ マヌと大洪水の物
船を作る(西型)
自分の娘と結婚する(東型)

中国 述異記 石亀の眼
宗像教授異考録?にでてきた島がなくなった話(瓜生島)に似ている話のようだ。

潜水型神話

北ユーラシアから北アメリカ北部に分布。
海底に潜って泥をとり、その泥から陸地が創られたというタイプの神話。
シベリア ブリヤート族:神ブルハンの命をうけた水鳥アングダ、水底から赤土をとる 土が水面に投げられ泡が生じ大地ができた
マイドゥ族:創造主 カメ 秘密結社の父の三者の登場人物


言葉による創造

一つの地域でしか見られない型 
旧約聖書には言葉の力の重視がみられる 創世記にて神の言葉の通りに世界ができあがる
新約聖書ヨハネの福音書にもその影響はあり、
はじめに言葉があった。言葉は神とともにあった。言葉は神であった。万物は言葉によって成った。
とある。

自ずとなる

天地創造における類型。(混沌とした)世界が特別な契機なしに自ずと秩序だっていき、世界が形作られるタイプ。
日本 ギリシア

天地の分離

天と地が分かれて世界ができる。
シュメール ギリシア

終末が火と水

北欧特にアイスランド
氷河と火山の土地における神話のためか。この地域にしか見られない型。



異類婚姻譚

人とは異なる存在と結婚する話。うまくいかないことが多いが、うまくいく場合もある
日本神話 ニニギとコノハナサクヤヒメはうまく行った例であり、王家の始まり神話になる。

第二部 人間のはじまりの神話

第二部では、人間創造の神話が扱われる。
重要なのは人間は「世界のミニチュア」として理解されていたという点。
そのため人間のはじまり神話は世界のはじまり神話と似た形態をもつ

創造型

旧約聖書におけるタイプ。神による言葉で人間が創造される。
 

進化型

ある物体が形を変えて人間になる。
オカナガン族 人間のはじまりは動物 動物人間 コヨーテのトリックスターとしての存在
インド リグ・ヴェーダ 巨人からつくられる 巨人プルシャの体の一部のそれぞれが階級の異なる人間になる
北欧神話 エッダ ギュルヴィたぶらかし 牝牛アウズフムラが舐めた石がブーリという人間になり、その子ボルから三柱の神々(ボルの息子たち)が生まれる そのボルの息子たちが海岸で見つけた二つの木から人間は作られた。男はアスク(とねりこの意味)女はエムブラ(未詳)この二人から人類が生まれた。
中国 盤古が死ぬと体内のさまざまな虫が民衆に変わった。(ただし、為政者はこの限りではない?)

出現型

地中や天上、植物などから出現したとする
アフリカ ドゴン族 世界を造った神アンマが粘土で最初の男女をつくる。八人の子供が生まれてドゴン族の祖先となる。子供達は両性具有 巨大な籠にのって地上におりる
アメリカ ホピ族 ナバホ族 人間の先祖は地中で暮らしていた、上の世界に移動して四つの地中の世界の後に五つ目の地上の世界に現れた
 

男女別々型

旧約聖書
ギリシア神話 ティタン族 神プロメテウス 土を水で捏ねて土器をつくるように人間(男)をつくる。オリンポスの神々は男の邪魔をさせるために工人の神ヘパイストスに命じて土を水で捏ねて最初の女をつくった。その中に神々はさまざまな要素を入れた。最初の女の名前はパンドラ。 パンはすべての神々のの意味、ドラは贈り物の意味。狡猾な神ヘルメスの贈り物で(卑しい)犬の心をもっていたため、男は女に悩まされて生きることになった。

死の起源神話

インドネシア アルフール族 トラジャ族 石を選ばず、バナナ選んで食べたために子を持つと枯れてしまうバナナのように人間も短命になった。石を選べば命が永久になった。 日本神話のニニギとコノハナサクヤヒメ、イワナガヒメの話が似ている


第三部 文化のはじまり神話

火のはじまりの神話

火と食物の類型は似ている 火と食べ物に強いつながりが存在するため
異界からあるいは天上から盗んでくることが多い

女性から出現する

日本 イザナミの体内から 同様に女性の体内に火が存在する神話は世界にある 特にメラネシア 南米
ワガワガの神話 老女が火を隠しもつ、若者が老女から盗み出す。盗んだ際に蛇の尻尾に燃えうつった火から人々は火を手に入れる
参考 フレイザー 火の起源の神話
女性 生命を生み出す→死をもたらす
イザナミ パンドラ

直接関係ないけど気になったことメモ

メソポタミア

ギリシャ語で川の間の地域の意味
メソが「間」、ポタミアが「川の」の意味

エジプトの歴史

紀元前3100年 初期王朝時代
古王国時代
第一中間期
中王国時代
第二中間期
新王国時代
第三中間期
(中間期は王朝が不安定な時期)
前770-712 ヌビア人支配時代
前525-404 ペルシア人支配時代
前332-30 マケドニア プトレマイオス朝
前30-後359 ローマ帝国時代
7世紀 イスラム勢力の流入

テホームとティアマトの語源。

また、旧約聖書の「深淵(テホーム)」が
バビロニア神話の女神ティアマトと語源的に関連しているという話も興味深い。